著名なワインのひとつに、「シャトー・ペトリュス」というものがあります。誰しもが、飲んだことはなくても名前くらいは聞いたことがあるでしょう。
しかし、ワイン初心者の中で、シャトー・ペトリュスについて多くのことを知っている人は限られているはずです。本記事では、シャトー・ペトリュスの味わいや価格、歴史や生産体制について解説します。
シャトー・ペトリュスとは
シャトー・ペトリュスは、世界でもっとも評価されているワインのひとつです。後ほど詳しく解説しますが、ワインの中でもたいへん高価な部類に入り、中には数百万円の値段が付けられているものもあります。そのクオリティと価格から、ロマネ・コンティと共に、「ワインの二大巨頭」などと呼ばれることも。
実際シャトー・ペトリュスは、名だたるソムリエたちから高い評価を受けています。ロバート・パーカーやヒュー・ジョンソンなどが、文句なしの満点評価を与えていました。
冒頭で触れたとおり、5大シャトーよりもハイクオリティだという人もいるくらいのワインなのです。
シャトー・ペトリュスの味わい
シャトー・ペトリュスの味わいについて解説しましょう。
ダークチェリーなどの果実を連想させるアロマと、堂々と鎮座するタンニンの存在感。 とても濃厚かつ粘り気であり、非常に重厚な味わいです。 たいへんに肉厚でインパクトのある味わいである一方、シルキーな口当たりと弾け飛ぶような果実味も兼ね備えています。
さらにトリュフやジャムのような、とても豊潤かつ複雑な香りを放ち、飲む前に飲み手を圧倒してしまう、きわめて高いポテンシャルの持ち主です。
シャトー・ペトリュスは、ストレートに「奇跡」とも言われます。 後述するシャトーの歴史や生産地のことを考えれば、この表現は非常に適切だと言えるでしょう。
また、ときにはその味わいをして、「ペトリュスはワインではない。神話の象徴である」などと、一見オーバーな表現が用いられることも。
要するに、キリストを貫いた槍(ロンギヌス)や、ゼウスが娘のアテナに贈った「アイギスの盾」のように神聖視されているというわけです。 ボルドーには素晴らしいワインが数多く存在しますが、「神性」を見出されていて称賛されるのはシャトー・ペトリュスくらいのものです。
シャトー・ペトリュスの価格とラインナップについて
先ほども触れたとおり、シャトー・ペトリュスは極めて高価なワインです。
日本で手に入れようとなると、やはり30万円から50万円程度の出費が必要となるでしょう。 レストランやナイトクラブで注文するのであれば、おそらく100万円近い価格になるはずです。
もっとも価値が高いのは、1961年のヴィンテージ。 価格は300万円を上回り、廉価なロマネコンティさえも上回るプライシングです。
シャトー・ペトリュスの生産地
シャトー・ペトリュスは、フランス・ボルドー東部、ポムロルという地区で生産されています。 ポムロル地区は、レヴァンジルやラ・コンセイヤントなど一流のシャトーが密集している地域。 シャトー・ペトリュスは、その中でもっとも偉大な存在として名を馳せています。
シャトーペトリュスが有するのは、11.5ヘクタールのぶどう畑。 このぶどう畑は、なぜか隣の畑と比較して、土壌が異なるのです。
シャトー・ペトリュスの土壌だけは、「スメクタイト」という物質が豊富に含まれています。 一方で周囲と比較して砂利が少なく、より豊潤な潤いを持っているのも特徴。 結果として土壌は、常に「少なすぎず、多すぎない絶妙な水分量」を保ち続ける、奇跡的な環境を作り出しています。
この特異な土壌から、シャトー・ペトリュスの芸術的な味わいと香りが生まれるのです。 ちなみに、この粘土はあまりにも異質なので、「ペトリュスの粘土」などと固有の名前で呼ばれています。
また、ポムロル地区は格付けが存在しない地域です。 つまりシャトー・ペトリュスは、「格付けに頼ることなく、5大シャトーをおびやかすほどの評価を受けている」ということになります。
シャトー・ペトリュスの製造法
シャトー・ペトリュスの製造法と言えば、やはり「グリーン・ハーベスト」が外せません。
グリーン・ハーベストとは、
- ぶどうが色付く直前に行われる”間引き”
- 夏場にぶどうの周囲を覆っているを除去する
という、ふたつの工程を指しています。
あまりワイン作りで見掛けられないこの手法が、シャトー・ペトリュスの味わいを作り出す根元となっている様子です。
また、ぶどうの収穫にもシャトー・ペトリュスのプライドとこだわりが認められます。収穫は、200人弱の熟練した職人たちの手によっておこなわれます。 このときも、霜の影響を可能な限りおさえられるよう、細心の注意が払われたスケジューリングによって進行されるようです。 天候が悪くなると見れば、スケジュールを組み換えて、一日ですべてのぶどうを収穫してしまうケースもあります。
収穫後も、きわめて厳しい品質検査を実施しています。 そこで不適格とされたぶどうは、シャトーにセカンドラインがない以上、永久にペトリュスを名乗れないのです。 間引きと品質検査をくぐり抜けたとっておきのぶどうだけが、オークの樽で熟成されます。
また、シャトー・ペトリュスは、かなり思い切った行動を取るケースもあります。 「前日の雨でぶどうに水滴がついた際にヘリコプターの風圧をぶつけて吹き飛ばす」など、側から見れば奇妙な行動に出たことがありました。
ボルドーにおいて、こういった行動はやや歓迎されない部分もあるでしょう。 しかし、こういったなりふり構わぬ品質への配慮こそが、シャトー・ペトリュスを最高峰へ引き上げたとも解釈できます。
シャトー・ペトリュスの歴史
シャトー・ペトリュスは、現在分かっている部分では、1837年ごろにはすでに存在したと考えられています。 当時は、まだ「無名なシャトー」でしかありませんでした。
しかし、1878年に大きな転機が訪れます。 同年、フランス・パリで「パリ万国博覧会」が開催されました。 シャトー・ペトリュスは、同会で最高の栄誉となる金賞を受賞。 名だたる名門シャトーをおさえたうえでの受賞であり、まさに大番狂わせでした。 これにより、シャトー・ペトリュスは主に欧米で注目されるようになります。
1900年代初頭、所有者であるアルノー一族が株式を発行。 本格的に、シャトー・ペトリュスが世界中へと広がり始めます。
1900年代前半、マダム・ルパがシャトー・ペトリュスのオーナーとなりました。 マダム・ルパは、シャトー・ペトリュスの生産と改良に注力します。 彼女の手によって、シャトー・ペトリュスは、誰しもが認めるワインへと成長するのです。
結果としてシャトー・ペトリュスは、メドック格付け1級で生産されたワインすら凌駕する価格で取引されるようになりました。 この時点でシャトー・ペトリュスの歴史は、わずか100年そこそこ。 無名だったワインが5大シャトーよりも高い価格で販売されたのは、それこそフランス全土がひっくり返るような珍事でした。
しかし、マダム・ルパのマネジメント下にあったシャトー・ペトリュスは、ボルドー地方では冷ややかな評価を受けています。 特に、保守的なボルドーのワインラバーたちは、「シャトー・ペトリュスが高価に取引されるなど、滑稽である」と考えていたようです。
ボルドーの冷めた空気とは相反して、英国やアメリカは、シャトー・ペトリュスを歓迎しました。 両国では、シャトー・ペトリュスがボルドーの偉大なワインであるとして受け止められます。 その証拠に、なんとシャトー・ペトリュスは、イギリス王室の結婚式で提供されました。 このことから、「英国王室御用達」というブランドと栄誉を手に入れます。 冷淡だったボルドーのワインラバーも、さすがにこれには黙り込むしかありませんでした。
アメリカでは、ケネディ家やロックフェラー家など、名だたる名家がシャトー・ペトリュスに傾倒。 そのブランドと信頼を、より確かなものとしました。 今でも同様に、「上流階級のステータス・シンボル」的なポジションを守り続けています。
1949年ごろ、ジャン・ピエール・ムエックスが、シャトー・ペトリュスを独占的に販売する権利を獲得。 以後、彼が設立した法人格であるムエックスが、シャトー・ペトリュスの単独所有者です。
シャトー・ペトリュスに似たワイン
正規に承継されるシャトー・ペトリュスは、先ほども触れたとおり非常に高価です。 誰しもが飲みたいと思っているでしょうが、おいそれと出せる金額ではないでしょう。
しかし、シャトー・ペトリュスに似たワインが、数多く存在します。 どうしたらシャトー・ペトリュスに近づけるのか、日夜研究している人たちがいるのです。 彼らのワインを飲めば、シャトー・ペトリュスがどういった存在なのか、ある程度仮想体験できます。
おすすめは、シャトー・トロタノワ。
これ自体もボルドー産で、価格は10,000円から40,000円程度の金額であり、「由緒正しいワイン」です。
驚くべきことに、生産地から生産方法まで、シャトー・ペトリュスとほとんど同じ。 香りも味も、相当なワインラバーでなければ違いを見抜けないレベルにまで仕上がっています。
シャトー・トロタノワのように、シャトー・ペトリュスを追従しているワインのクオリティは恐ろしいほど高くなっています。 日本のバラエティ番組で、「2杯のワイングラスがあるうち、本物のシャトー・ペトリュスを当てる」という趣旨のコンテンツが放送されていました。
チャレンジしたのは、ロブ・モンダヴィJr.とワインをデザインしている一流ワインラバー、YOSHIKI(X JAPAN)。 ここで彼が回答を間違えていれば面白かったのですが、さすがにシャトー・ペトリュスを言い当てました。 しかし、彼は”ハズレ”として出てきた似たワインにも、
「この金額で、これだけの味がするのか」 「(自分のような人間は別として)騙される人が出てきてもおかしくはない」
などと、惜しみない賞賛を送っています。
要するにシャトー・ペトリュスのフォロワー的なポジションにあるワインは、一流のワインラバーから見ても、すさまじいクオリティを持っているというわけです。
まとめ
ワインの世界は、基本的に”格付け”が大きな意味を持っています。
その中で、シャトー・ペトリュスは、格付けを有しないままにあらゆるワインを圧倒し続ける存在です。 格付けなしで、(比喩的な意味で)”最高格”として認知されているワインは、シャトー・ペトリュス以外にほとんど例がありません。
時には5大シャトーさえもしのぐその味わいと香りを、そして「神話」とさえ言われる魅力を、ぜひ堪能してもらいたいところです。
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