春の息吹が感じられるなか、イタリア・トスカーナ州はモンタルチーノ地区「カステッロ・バンフィ」のワイナリーに行ってきました。
モンタルチーノといえば、イタリアの最も偉大なワインのひとつであるブルネッロ・ディ・モンタルチーノの産地。ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを味わいに、フィレンツェから日帰りでのワイナリー行きでした。
カステッロ・バンフィの貢献
バンフィは、イタリア系アメリカ人、ジョンとハリー・マリアーニ兄弟によって、1978年に設立されたワイナリーです。
今でこそ世界に名を馳せるブルネッロ・ディ・モンタルチーノですが、その歴史は浅く、DOCになったのが1967年、DOCGに昇格したのが1980年です。かのビオンディ・サンティが最初にブルネッロを造ったのは1888年ですが、それ以降、DOCになるまで80年近く、ブルネッロを造る生産者は現れず、モンタルチーノは「ブルネッロの地」ではなく、誉れあるビオンディ・サンティがワインを造っている地でしかなかったのです。
そのような状態を劇的に変化させたのが、バンフィです。バンフィの1979年ヴィンテージのブルネッロが『ワインスペクテーター』誌にて90点を獲得し、世界で高い支持を得ることになりました。アメリカ資本であるバンフィの世界的な販売網とも相まって、ブルネッロは世界的地位を確立したのです。そして、ブルネッロを造るモンタルチーノの生産者は急増し、1990年代にはブルネッロ・ブームとなりました。
カステッロ・バンフィのブドウ畑
モンタルチーノの富と名声に大きな貢献をしたバンフィは、モンタルチーノの最南端に位置します。フィレンツェからは南へ約130キロ。2830ヘクタールという広大な所有地は、小高い丘が連なり、風光明媚な景色が続きます。ブドウ畑は、所有面積の約3分の1。残りの3分の2は、穀物やオリーブ畑、プルーン畑、そして森林になっています。
糸杉並木の左右に広がるブドウ畑。美しい景色!↓
ブドウ畑の奥に見えるカステッロ↓
「カステッロ(城)」自体は、9~13世紀に発展したもので、その歴史は、古代エトルリアまで遡ります。エトルリアの住居跡や、その後の古代ローマの石も発見されています。
カステッロには、歴代数々の貴族が住んでいましたが、第二次世界大戦により無残な状態になり、それをマリアーニ家が復活させました。
現在のカステッロは、おもてなしの中心の場で、エノテカ(ワインバー兼ワインショップ)、ミシュラン1つ星レストラン、ルレ・エ・シャトー加盟ホテルとなっています。
エノテカ内↓
バンフィに行ったのは、5月23日。ブドウは、小さなつぼみが出ている状態でした。例年この時期には、葉はもっと成長していて、つぼみも大きくなっている時期ですが、今年は生育がだいぶ遅れているようです。
というのも、今年は、3月末に急に暖かくなったあと寒さが戻り、4月もずっと気温の低い状態が続いたからです。5月後半になっても、最低気温は10度前後、最高気温は24度くらいです。この日も、風が涼しく、私はスプリングコートを着ていました。
バンフィのブドウ畑↓
バンフィのブドウのつぼみ↓
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを飲む
今年は、コロナ感染対策のため、年明けから飲食店は営業ができない状態でしたが、やっと営業が許可され、バンフィのエノテカは5月中旬に営業を再開しました。ただし、屋内での飲食はまだ禁止されているため、屋外のみでのサービスとなっています。
通常、バンフィでは、複数のワインを少しずつ試飲できるテイスティング・セットがあるのですが、それはまだ解禁になっておらず、外のテラス席でグラスワインを飲むことができるようになっています。
まず飲んだのは、今年リリースされたブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2016年。スタンダード・キュヴェ。
ミックスベリーの果実のアロマは上品で、リコリス、タバコのニュアンスが複雑味をプラスしている香り。シルキーなタンニンとクリーンな酸味のバランスが非常によく、優美な味わい。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノのスタンダード・キュヴェは、80%は60~90HLのフレンチオーク樽、20%は350Lのフレンチ・バリックで2年間熟成されます。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノのスタンダード・キュヴェをテラス席で↓
次に飲んだのは、バンフィの新入り、“ヴィニャ・マッルケート”ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2016年。今年初めてのリリースとなる単一畑のブルネッロ・ディ・モンタルチーノです。バンフィの顔ともいえる“ポッジョ・アッレ・ムーラ”ブルネッロ・ディ・モンタルチーノも単一畑のワインで、ヴィニャ・マッルケートの畑は、ポッジョ・アッレ・ムーラの畑の隣に位置します。ヴィニャ・マッルケートは、モンタルチーノの地ではめずらしいギヨー仕立て。長年の分析・研究により、ヴィニャ・マッルケートの土壌がギヨーに適しているということが判明したからだそうです。
エノテカで開けたのは3本目だという“ヴィニャ・マッルケート”ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、スタンダード・キュヴェより凝縮感があり、ふくよかな味わい。タンニンはビロードのようでなめらか。モンタルチーノ南部の温暖な太陽を感じる荘厳なワインでした。
熟成は、60~90HLのフレンチオーク樽で30か月。
“ヴィニャ・マッルケート”ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ2016年↓
そして、最後に飲んだのは「エクセルサス」2015年。
エクセルサスは、いわゆるスーパータスカンで、メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンのブレンドです。
モンタルチーノはサンジョヴェーゼ種の「ブルネッロの地」のため、国際品種で造られるスーパータスカンの数が少ないですが、さすがはバンフィ。高品質なボルドー・スタイルのワインも造っています。
ファンの多いエクセルサス。果実のコンフィのアロマ、スパイス香、コーヒー豆の香りが広がり、気品ある味わい。
熟成は、350Lのフレンチ・バリックで約24か月。
国際品種とはいえ、モンタルチーノのテロワールを感じることができる味わい。モダンスタイルで、甘美な魅力たっぷりのワインです。
スーパータスカンのエクセルサス↓
バンフィの革新とサステナビリティ
この日はセラーに行くことはできませんでしたが、バンフィのセラーは、モンタルチーノを牽引する最先端の技術が搭載されています。ユニークなのは、2007年に完成した、ステンレスとオーク樽を組み合わせた発酵タンクです。ステンレスの温度管理システムにより、発酵温度を調整することができ、オーク樽を通してワインが呼吸することで、色とアロマが豊かになります。ステンレスと樽、両方の利点をいかした画期的なタンクです。
常に、研究が続けられ、革新的な挑戦をおこなっているバンフィ。大企業で工場のようなイメージがあるかもしれません。しかし、バンフィこそが大規模でサステナブルな取り組みをおこなっているといえるのです。
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))にかかげられた17の目標を、バンフィのすべての活動のなかに細分化させて取り入れ、目標達成に努めています。そして、その達成状況を毎年報告しています。
まとめ
風光明媚な丘陵と広大なブドウ畑、歴史を感じさせるお城、圧巻の蔵、温かなホスピタリティ、明確なサステナビリティの遂行、テロワールを感じさせるワインの味わい、パーフェクトであるそれらすべてを集結したようなバンフィのワイン。モンタルチーノの尊さをあらためて体感することができる、そんなワインでした。