アンフォラ・ワインの魅力

アンフォラ・ワインの魅力

「歴史は繰り返す」とはよくいったもので、大昔から使われていたアンフォラが近年ブームになっています。今回は、アンフォラで造られたワインの魅力に迫ります。

アンフォラとは

アンフォラとは、テラコッタの容器の総称です。テラコッタとは、テッラ(土)、コッタ(焼いた)の言葉の通り、土を素焼きした焼き物のこと。アンフォラは、甕(カメ)の形をしていて、古代ギリシャ、古代ローマの時代に、ワインやオイル、魚醤、ドライフルーツ、はちみつなど、食料の運搬や保存のために使われていました。運ぶことができるよう持ち手があり、20リットルくらいのサイズのものでした。

アンフォラはワイン造りにも使われていました。ワイン発祥の地といわれるジョージア(旧グルジア)では、「クヴェヴリ」と呼ばれるアンフォラで紀元前6000年前ごろからワインが造られていたのです。どのような製造方法かというと、クヴェヴリを地中に埋め、その中に果皮や種ごとブドウを入れて発酵させます。クヴェヴリが地中に埋まっていることで温度が低温で安定し、発酵がゆっくりと進むのです。クヴェヴリを使ったワインの醸造は、世界最古の醸造方法として2013年ユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。

地中に埋めずに床に置いても、アンフォラはワインの醸造のために使用されます。ワイン造りに使われるアンフォラは、200リットルから4000リットルくらいの大きな卵型の容器で、持ち手はついてません。2~3世紀ごろから、より実用的な木樽に取って代わられ、アンフォラは衰退していきましたが、世界無形遺産になったことをきっかけに、注目を集めるようになりました。

アンフォラ・ワインの特徴

アンフォラは、ステンレスタンクに比べて気密性が低く、微量の酸素が土を通して中に入ります。オーク樽と同じく、微酸化作用があるのです。
オーク樽を使用すると、木に特有の香りや風味がワインについてきますが、アンフォラを使用してもアンフォラ由来の風味はワインにはつきません。というのは、アンフォラの内側は、蜜蝋ワックスでコーティングされていますので、土がむき出しになっているわけではありません。
つまり、アンフォラは、木樽のように呼吸するのに、ステンレスタンクの場合と同じでワインには風味がつかないということになります。

また、アンフォラは、外気の影響を受けにくいため、ステンレスタンクのような温度管理を必要としません。卵型の形状が自然対流を生み出すことにより、攪拌作業を必要としないというメリットもあります。

アンフォラは、ブドウ本来のピュアな味わいを残しつつ、微量の酸素を供給することで、ワインをまろやかでやさしい味わいにします。

アンフォラ・ワインのパイオニア

アンフォラを世界に広めたといわれているのは、イタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州にあるグラヴネルです。ヨスコ・グラヴネル氏は、2000年にジョージアの友人から取り寄せたアンフォラを使ってクヴェヴリ製法のワインを造り、そのすばらしい出来に感動し、2001年にアンフォラ・ワインを正式にリリースしました。
フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州は白ワインの地。グラヴネルが造るのも主に白ワインです。白ワインにもかかわらず、7か月もの醸しがアンフォラの中でおこなわれます。赤ワインでは3週間から長くても1か月ですので、驚くべき長さです。長期の醸しを終えた白ワインは、その後、オーク樽で熟成されます。このように造られたワインは琥珀色で、オレンジピールやドライアプリコット、アニスなどの香りが広がり、深みのある複雑な味わいです。これはいわゆるオレンジワインと呼ばれているもので、グラヴネルのワインはイタリアのオレンジワインの始まりでもありました。

グラヴネルのワインは、20年は熟成することができる偉大なもので、グラヴネルは「イタリア最高の白ワイン生産者」と称されています。

グラヴネルでは、農薬や化学肥料は一切使用されず、雑草は生えたまま。自然環境に敬意を払い、人的介入を最小限に抑えるというフィロソフィーでワイン造りがおこなわれています。

ヨスコ・グラヴネル氏は、自身のワイン造りを「きれいな水の川を探すようなもの。海の近くではきれいな水は見つからない。山奥の水源に行かなくてはいけない。私はワインの「源」を探しに行ったのだ。」と語っています。

グラヴネルの影響を受け、フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の造り手が次々とアンフォラを使用したワイン造りを開始しました。そしてそれは、現在もイタリア全土、そして世界に広がっています。

アンフォラ・ワインのブーム

アンフォラを使ったワインは、近年のナチュラル志向にもマッチしています。より自然なものを生産者も消費者も求めるようになり、アンフォラ・ワインの人気が急上昇しています。
イタリアでは、フィレンツェ近郊の村インプルネータがテラコッタの産地で知られています。インプルネータにある「テラコッタとワイン」というカルチャー組織が、アンフォラで造られたイタリアワインを集めたワイン祭りを毎年秋におこなっていきました(今年はコロナの影響で中止です)。アンフォラ・ワインもポピュラーになりつつあります。

アンフォラを使っているワイン生産者

シャトー・ポンテ・カネ
シャトー・ポンテ・カネは、フランスはボルドーのメドック格付け第5級のシャトー。シャトー・ポンテ・カネでは、2012年からアンフォラでワインの発酵がおこなわれています。

シャトー・ポンテ・カネは、ボルドーにおけるビオディナミの先駆者でもあり、2004年からビオディナミを実践していて、2010年にオーガニック認証、2014年にビオディナミ認証を取得しています。馬を使っての耕作や手作業での除梗など、サステイナブルな取り組みを積極的におこなっているシャトー・ポンテ・カネが選んだのはアンフォラでの発酵です。

↓シャトー・ポンテ・カネの畑。耕作には馬が使われます。

↓ワインは、アンフォラで発酵された後、オーク樽で熟成されます。

シャトー・ポンテ・カネは、格付け第1級シャトー・ムートン・ロートシルトの向かいに位置しています。そんなロケーションで、栽培から醸造まで手を抜かずに造られるワインは、ロバート・パーカーやジェームス・サックリング、ワイン・スペクテーター、ワイン・アドヴォケイトが100点満点をつける偉大なワインで、その品質は5級以上といえます。

↓シャトー・ポンテ・カネとシャトー・ムートン・ロートシルトの表示

現在では、アンフォラの素材はテラコッタに限りません。シャトー・ポンテ・カネでは、コンクリート製のアンフォラが使用されています。

シャトー・ポンテ・カネのワインは、ブラックベリーなどの黒系果実のアロマとナツメグやハーブのニュアンスが感じられます。凝縮した果実味が口の中にも広がり、美しい酸味となめらかなタンニンがあり、濃厚で、深みのある味わいです。長く余韻が続く、優美なワインです。

まとめ

最近脚光をあびているアンフォラ・ワイン。自然というだけでなく、大昔から使われていた甕(カメ)の中で造られたワインなんて、ロマンがあると思いませんか?!
アンフォラで造られたワインを飲むと、ブドウ本来の透明感ある味わい、まるみのあるあたたかみが感じられます。飲む側も、構えることなく自然体でいることができるように思います。これからもアンフォラ・ワインから目が離せません!

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